研究概要 |
膵β細胞内インスリン顆粒の貯蔵からfusionまでの細胞内トラフィックを明らかにする目的で,Variable TIRF (VTIRF)顕微鏡(evanescent場を任意に調節可能な顕微鏡)を開発し、GFP標識顆粒の時間空間的動態解析を行い、以下の点を明らかにした。 (1)β細胞におけるインスリン顆粒には形質膜上にdockingしている顆粒(previously docked granules)のプールと、形質膜から約500nm内部に存在する細胞質内顆粒プールの少なくとも2つの顆粒の貯蔵プールが存在していた。高グルコース刺激による分泌第1相は、前者の貯蔵プールからの顆粒のfusionにより構成され,一方,分泌第2相は後者の貯蔵プールから形質膜へ移動してきた顆粒(newcomers)のdocking/fusion (<50ms)から構成されていた。さらに細胞質内貯蔵プールから形質膜への移動にはアクチンによる調節が関与しており、その調節分子機構を現在検討している。このようにVTIRF顕微鏡は特に2相目のインスリン分泌の解明に非常に有用なシステムである。 (2)分泌第1相における顆粒のfusion部位はSyntaxin1A (Synt1A)の局在と一致したが、第2相ではSynt1Aとは異なる部位でfusionが観察された。Synt1A欠損マウスから調製したβ細胞では第1相を担うpreviously docked granulesが激減し、そこからのfusionが見られなかったが、第2相でのnewcomersのfusionはwild typeと同様に観察された。Synt1A欠損β細胞にSynt1Aをアデノウイルスを用いて発現させると、previously docked granulesの数が正常値まで回復すると共に、分泌第1相が回復した。このように、インスリン分泌第1相はSynt1A依存性であり、第2相はSynt1A非依存性であることから、分泌第1相と第2相におけるインスリン開口放出は共通のメカニズムではなく、空間的にまた関与する分子が異なる機構であることを明らかにした。
|