神経細胞は極性をもった細胞であり、軸索と樹状突起という構造及び機能の全く異なった2種類の神経突起を有する。一般に神経細胞の軸索の一部がシナプス前終末部を形成し、樹状突起あるいは細胞体がシナプス後部を形成する。すなわち軸索と樹状突起は神経伝達の方向性を決定しており、その接点であるシナプスを介して複雑であるが秩序立った神経ネットワークが構築され、脳が機能する。これまでに細胞骨格蛋白質、神経伝達物質受容体、イオンチャネルなど多くの機能分子が軸索あるいは樹状突起に選択的に局在することが知られており、数種の分子に関してはそのソーティングシグナルが同定されている。またそれらの選択的トラフィッキングにはRabファミリー低分子量GTP結合蛋白質やキネシンファミリーモーター蛋白質などが関与することが示唆されている。 私たちは平成16、17年度「メンブレントラフィック」公募班員として、神経細胞の極性・トラフィッキング機構の研究のためのin vivoシステムの開発に成功し、終脳特異的樹状突起性細胞接着分子テレンセファリン(TLCN)の細胞内領域C末端の17アミノ酸が樹状突起への選択的ターゲティングに必要かつ十分である新規モチーフであることを報告した(J.Neurosci.2005)。本年度はTLCN細胞内領域に結合する分子の探索を酵母Two-Hybrid法により行い、アクチン結合蛋白質であるERMファミリー分子群(Ezrin/Radixin/Moesin)及びキネシン結合蛋白質であるJIPを同定した。それらのうちERMについては樹状突起フィロポディアにおけるTLCNとの共局在を確認し、樹状突起フィロポディア形成におけるTLCN-ERM相互作用の重要性を見出した。
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