最近になって、低分子RNAを含め生殖細胞形成過程におけるエピジェネティック制御の重要性を示唆する貴重な知見が蓄積されつつある。一方で、エピジェネティック制御の減数分裂における役割など、生物学的意義については不明な点が数多く残されている。本研究課題の目的は、ゲノムインプリンティングに着目し、生殖細胞形成過程におけるエピジェネティック制御の分子基盤解明を進めることにある。現在まで、DNAメチル化酵素群が生殖細胞におけるゲノムインプリンティングの確立に必須であることが明らかにされているが、本研究課題においては、生殖細胞特異的にDNAメチル化酵素を欠失させたコンディショナルノックアウトマウスを用い、新規に同定した遺伝子を含む20を超える遺伝子座について、胎盤などの胎仔外成分に着目した解析を進め、DNAメチル化に依存しないゲノムインプリンティング確立機構の解明に取り組んできた。これにより、生殖細胞におけるエピジェネティック制御、とりわけヒストンテール修飾の生物学的意義を明らかにすることができると大きく期待している。種々の遺伝子欠損マウスを活用し、とりわけDNAに新規にメチル基を付加することのできるDmnt3aやDmnt3b、あるいは双方を同時に欠損させたマウスモデルにおいても、ゲノムインプリンティングが確立される遺伝子群が存在することを明らかにした。これらの結果は、DNAメチル化非依存的な発現制御を受ける遺伝子群が存在することを見出している。したがって、DNAメチル化とヒストンテール修飾が協調的に機能することによって調和のとれた個体発生が可能であることを強く示唆する貴重な知見となることが期待される。さらに、RNA結合タンパク質を欠失した細胞においては、本来、高度にメチル化されるべき遺伝子座が脱メチル化を受けるとともに、大規模なヒストン修飾異常を誘発することが明らかとなりつつある。
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