ポリコーム群蛋白質はクロマチン修飾因子としてエピジェネティックな遺伝子発現制御に関与する。近年、遺伝子欠損マウスの解析からその幹細胞維持機能が明らかとなり、造血幹細胞を始めとした幹細胞制御分子として注目を集めている。我々はポリコーム遺伝子Bmi1とRing1Bが精子幹細胞の自己複製に関与するものと考え解析を進めている。 Bmi1ノックアウト(KO)マウスの精巣は形態的には野生型と変わりなく、精子への分化も正常に見られたが、週齢を重ねるにつれて精原細胞の減少が見られた。Bmi1 KOマウス由来の精子幹細胞は精子幹細胞移植において再構築能をほとんど示さず、自己複製能に異常があることが示唆された。 Bmi1 KOマウスでは野生型と比較して体細胞型細胞増殖の遅延が認められるが、Bmi1 KO精原細胞では細胞周期制御遺伝子の発現の変化に加えて、本来分化した細胞に発現する遺伝子が異所性に発現していた。さらに、培養系の精子幹細胞であるGermline stem cell(GS細胞)においてRNAiによりBmi1の発現を抑制すると細胞増殖能が著明に抑制され、分化が亢進する傾向が認められた。これはBmi1が精子幹細胞において分化関連遺伝子の発現を抑制していることを支持する所見である。実際GS細胞にBmi1を強制発現させると、c-Kit陰性未分化型GS細胞の割合の増加が認められた。また、精子幹細胞の自己複製に重要である転写抑制因子PLZFとBmi1がc-Kit陰性の未分化なGS細胞特異的に共局在することが確認され、Bmi1を過剰発現させたGS細胞ではBmi1とPLZFの共局在がより強く認められた。以上の所見より、Bmi1は精子幹細胞において分化関連遺伝子や細胞周期制御遺伝子の発現を抑制することで、未分化性の維持を制御しているものと考えられ、その機能の一部はPLZFとの協調作用により発揮されるものと想定される。 一方Ring1B KOマウスの精巣における異常はBmi1 KOより明らかに強く、幹細胞の自己複製および分化について解析を進めている。われわれの解析結果は、ポリコーム蛋白が精子幹細胞の自己複製制御分子としても機能していることを示すものと考えられる。
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