次世代への遺伝情報の伝達を担うマウス精子形成幹細胞が、成体精巣内でどのように挙動するかを明らかにすることを目的として研究を行った。そのために、幹細胞を含む少数の未分化型精原細胞に特異的な遺伝子として我々が同定したNgn3を利用した。この遺伝子の発現制御領域を用いてNgn3発現細胞を標識し、その運命を追跡する手法を取り、以下の結果を得た。 まず、薬剤誘導的Creリコンビナーゼ(CreERTM)を利用して、成体でのngn3発現細胞をタモキシフェン投与により不可逆的にパルス標識し、その長期間(月〜年)の挙動を追跡した。さらにパルス標識実験と移植によるコロニー形成性幹細胞の検出を組み合わせることにより、成体精巣内の幹細胞が均一な集団ではなく、実際に幹細胞として機能するactual stem cellsと、幹細胞の能力を有しながら実際には自己複製をしないpotential stem cellsとからなる不均一な集団であることを明らかにした。 更に、GFPを用いてNgn3発現細胞を標識したマウスと、独自に開発した生きた精巣内で蛍光標識細胞を連続観察する系を用いて、実際の精巣内での未分化型精原細胞の増殖と分化の様子を観察した。その結果、これらの細胞が好んで局在するニッチといえる領域を明らかにした。このニッチ領域は、血管の分岐点の付近と言う構造的に特殊な領域であり、分化に伴ってこの領域から細胞が出て散らばっていく事が明らかとなった。
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