研究概要 |
生殖幹細胞は、これまでにFlow cytometry法においてFSC^<high>,SSC^<low>,E-cadhrin(+)の細胞集団に含まれることを示してきたが、この中には転写因子Oct-3/4の発現の有無により2つの集団が存在する。Oct-3/4(+)の細胞集団は成長・成熟期を通じて幹細胞として存在することが確認されたが、Oct-3/4(-)の細胞集団は精巣の成熟過程の一時期に出現するだけでなく、外来性のGDNFの刺激によっても誘導されるものであり、成長や再生にともない幹細胞の増殖期に出現するものであることを突き止めた。臓器の成長や再生は、組織幹細胞の増殖の過程としてとらえることができ、Oct-3/4(-)の細胞集団は幹細胞の増殖調節にかかわることが明らかとなった(投稿中)。 一方、生殖幹細胞は遺伝情報を保持し、次世代へと伝える重要な役割を担っている。この遺伝情報の維持は、生殖幹細胞においてできる限り損傷を回避する必要があるとともに、一定以上の損傷が生じた場合は減数分裂において組み換え修復を行うものと予想される。このような遺伝子損傷の修復因子の一つとしてRad18に着目し、アルキル化剤により遺伝子損傷を誘発したところ、遺伝子損傷に伴い細胞周期が停止し、その後Rad18が幹細胞で翻訳され遺伝子修復にかかわることが示唆された。さらに、修復不能となった細胞はアポトーシスにより除去され、修復あるいは損傷がおこらなかった幹細胞からの組織修復が起こることが示された。Rad18ノックアウトマウスでは、損傷修復が不十分な異常細胞の増殖が認められ、早期に幹細胞が枯渇した精細管が認められるようになることが示された。これは、老化と幹細胞数減少との関連性の解析モデルとして有用である。また、P53ノックアウトマウスとのダブルノックアウトとして、癌化との関連性についても解析を進めている。
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