アセチル-CoA合成酵素(II型)(AceCS2)遺伝子の欠損マウスの作成によってこの酵素の個体における役割を解析した。AceCS2は主に骨格筋に発現し、絶食やI型糖尿病、授乳期などのケトン体の利用が重要となるときに発現が上昇する。欠損マウスでは、授乳期に成長障害が生じ、この時期を越すと通常の成長に戻る。このマウスはレプチン欠損のob/obマウスとの掛け合わせでも同様に授乳期の成長障害が起こることから、レプチンシグナルとは独立した要素によるものと判明した。さらに、成長ホルモンやインスリン様成長ホルモン値には野生型マウスと比べ同様の値を示し、体重あたりの摂食量、摂食関連ホルモンには無関係であった。授乳後のAceCS2欠損マウスの解析では、通常食では授乳後1ヶ月程度で体重が野生型に追いつく。しかし、低糖高脂肪食では体重の増加の減少が見られた。以上から、このマウスの代謝障害の本態はケトン体の利用障害が予測され、授乳直後に低糖高脂肪食を与えると約50%のマウスが死亡した。生き残ったマウスも顕著な体重増加の低下が認められた。成熟マウスの解析では、絶食時には体温の低下が有意に起こり、トレッドミルの持久運動実験では持久力の低下が見られた。さらに、ケトン体利用が著しいI型糖尿病のモデル動物であるストレプトゾトシン投与では野生型と比較し明らかな生存曲線の低下が認められた。以上より、AceCS2はケトン体である3-hydroxy-butyricacidやacetoacetateを基質とすることが予測され、in vitroの実験では、AceCS2はacetoacetateを基質(Km値;1mM)とし、酢酸と比較し35%程度の基質特異性が認められた。絶食や1型糖尿病のケトジェニックな状態ではケトン体が2-4mMまで上昇することから、基質として十分可能なKm値と考えられた。以上より、AceCS2はケトジェニックな状態で転写が上昇し、ケトン体を基質とする酵素であること、そして、ケトン体をエネルギーとして有効利用が必要なI型糖尿病などのときに必須な酵素であることを提示するものであった。
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