研究概要 |
マウス胎児由来3T3-L1細胞は脂肪細胞分化のモデルとして広く用いられている.終末分化に移行させるためには通常コンフルエントになるまで培養して増殖を停止させた後にホルモン等の分化誘導因子を加える方法が行われ,細胞密度の低い状態で因子を加えても分化は起こらないことが知られている.申請者らは,50%以下の密度の細胞にATPを加えてインキュベートした後に分化誘導因子を添加して培養を続けたところ,増殖を続けながら脂肪細胞に分化することを見出した.ATPは神経伝達物質として分泌されるだけでなく,細胞自身によるオートクライン/パラクライン機構により細胞間シグナル伝達物質として機能することが報告されていることから,ATPによる分化調節作用は,神経性調節によるものだけでなく,未分化脂肪細胞同士あるいは周辺に存在する筋細胞等との相互作用の可能性も考えられる. 平成18年度の研究において,まず(1)ATPが未分化3T3-L1細胞の遊走性を高めることを見いだした.ATPは未分化3T3-L1細胞のケモカイネシス(ランダムな細胞移動)を促進し,さらにATPに対して正の走化性を示すケモタキシスも引き起こした.しかし,成熟脂肪細胞に分化すると細胞の移動は観察されなかった.次に,(2)ATPが細胞周期のライセンシング因子であるnucleophosminのT199部位のリン酸化を抑制すること,を見出した.このことはATPが未分化3T3-L1細胞に対して細胞周期を一時的に停止させた状態を作り出して分化へのプロセスを開始させる作用を持つ可能性を示唆した.
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