アディポネクチンの各領域の分子間相互作用を明らかにするため、様々な構成のアディポネクチンフラグメントを作成し、物理化学的な解析を進めた。全長アディポネクチンは還元状態、5℃でのCDスペクトルにおいて235nm付近にコラーゲン様トリプルヘリックス構造に由来する正のピークを示した。この波長におけるモル楕円率の変化を温度に対して測定すると、19℃および67℃において転移が観測された。低温側の転移では正のピークが消失しておりコラーゲン様ドメインが変性していることが示された。また、球状ドメイン単独ではβシート構造に特徴的なスペクトルが得られ、70℃において転移が認められた。に、構造転移と会合状態の関係を調べるために、コラーゲン様ドメインの変性温度の前後である5℃と40℃において、超遠心分析による分子量測定を行った。そして、全長アディポネクチン、球状ドメインいずれも両温度で三量体であった。一方、コラーゲン様ドメインのみでは5℃でのトリプルヘリックス構造の形成は見られず、三量体形成も認められなかった。従って、アディポネクチンの三量体形成には球状ドメイン間の会合が支配的であるといえる。予想に反し、コラーゲン様ドメイン単独での構造安定性は低く、球状ドメインが三量体を形成し末端が拘束されてはじめてトリプルヘリックスが形成できた。また、三量体より大きな会合体形成については、高濃度での超遠心分析によっても還元状態ではその形成を確認できなかった。一方酸化状態では部分的に高分子量の会合体形成が起こるものの、ランダムな会合による凝集には至らず、適当な多量体として安定化する仕組みが存在していることが示唆された。
|