ES細胞の分化誘導のシステムを用いて、2つの脂肪細胞の前駆細胞を明らかとした。1つはES細胞由来の中胚葉細胞である。誘導開始後4日目のPDGFRα^+FLK1^-分画が沿軸中胚葉に相当し、この分画は、頻度は低いながらも脂肪細胞へと分化させることが可能である。もう1つは、間葉系細胞である。間葉系幹細胞が培養開始9日目のPDGFRα+細胞に含まれることを明らかとした。レチノイン酸を分化誘導開始後の2日目から5日日まで加えた誘導条件では、4日目の中胚葉細胞の出現は完全に消失する。代わりに、培養開始9日目にピークとなるPDGFRα+細胞の出現が観察される。このPDGFRα+細胞は、純化・培養後の観察で、形態は線維芽細胞様で、試験管内で高い増殖力を示す。中胚葉、神経系、内胚葉系特異的マーカーの発現は見られず、間葉系マーカーの発現が見られる。また、この細胞は高い効率で脂肪細胞へ分化する。分画の中には、自己複製能と多分化能(脂肪・骨・軟骨細胞へ分化)を有する間葉系幹細胞が存在することも明らかとなった。次に、この間葉系幹細胞がどのような細胞系列から分化するのかについて解析を行った。その結果、間葉系幹細胞はES細胞の分化誘導システムでは、Soxl+の神経上皮細胞由来であることが明らかとなった。一方、脂肪細胞分化過程を司る分子メカニズムを明らかとするために、DNAマイクロアレイ法にて、分化の中間段階にある細胞1つ1つについて、網羅的遺伝子発現プロファイルの作成を行った。このプロファイルを用いて、機能不明分子ARID3Bを単離した。作成したノックアウト・マウスは、胎生致死を示し、致死直前のマウスでは頭部間葉系細胞がほとんど消失していた。以上から、この分子は脂肪前駆細胞である間葉系細胞の維持に必須の分子であることが明らかとなった。
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