グルタミン酸は、神経幹細胞の増殖、神経細胞の移動・成熟にとって重要な役割を果たすことがin vitroの実験から示唆されてきた。しかし、グルタミン酸受容体欠損マウスなどのグルタミン酸のloss-of-functionモデルでは、脳の形成異常を示さない。我々は、2種類のダリア型グルタミン酸トランスポーターを全く持たないdouble knockout mouse (DKマウス)を用いグルタミン酸のgain-of-functionモデルを作成した。DKマウスは、大脳皮質・海馬・嗅球の層形成障害などの様々な発達異常が観察された。DKマウスの大脳皮質の形成異常をBrdUを用いて解析したところ、胎生15日から始まる神経前駆細胞の分裂能の低下、胎生14日以降に新生した神経細胞の移動能の低下によるものであることがわかった。しかし、TUNEL法で陽性に染まる細胞数に変わりはなかった。また、上記異常はグルタミン酸受容体のブロカーにより改善することがわかった。以上の結果は、グルタミン酸が神経細胞の移動及び神経幹細胞の分裂に関与し、脳の形成に重要な役割を果たすことをin vivoで初めて証明したものである。さらに、脳の正常な発達にはグルタミン酸トランスポーターによる細胞外グルタミン酸濃度の厳密な制御が重要であることを示している。
|