研究課題
本研究は、脳のアストロサイト特異的かつ時期特異的遺伝子操作マウスを作成し、NMDA型グルタミン酸受容体の内在性リガンドと報告されているアストロサイト由来D-セリンによる神経伝達調節と脳機能における役割を、個体レベルで検証することを目的としている。この目的のために、アストロサイト特異的に発現しD-セリンの合成を担うセリンラセミ化酵素(SR)遺伝子を脳部位特異的かつ時期特異的に欠損させたマウスを作製した。SRのタンパク質コード開始メチオニンに合わせ、薬剤投与により活性誘導が可能な遺伝子組換え酵素CrePR遺伝子を挿入したSRCPマウスを2系統作製した。No.107系統では、ノックアウトマウスで、SRが欠損したことをウェスタンブロット法ならびに免疫組織化学法で確認した。特に免疫組織化学法では、成体大脳皮質ではSRがアストロサイトよりも神経細胞に主に発現することを見出した。さらに脳内D-セリン量が有意に減少していることを見出し、SRが脳内D-セリン合成の主要な酵素であることを個体レベルで明らかにした。また、No.6系統ではホモ接合体マウスを得ることができなかった。この2系統の表現型の差異の原因を明らかにする必要がある。一方、SRの酵素機能に必須の領域をコードする第3エクソンの上流と下流のイントロン中にCrePRの認識配列であるloxPを導入し、かつ遺伝子欠損をモニターするためにloxP間の欠損により蛍光蛋白質EGFPを発現するようにしたSRLマウス系統を作製した。このマウスでは、loxP間の欠損によりEGFPの発現が誘導されることを確認した。今後、SRCPマウスの表現型を解析し、さらにSRCPとSRLマウス系統を掛け合わせることにより、SRの脳機能における役割を分子生物学的、生理学的および行動学的観点から詳細に解析する予定である。
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J. Neurochem. 98
ページ: 588-600
神経研究の進歩 50
ページ: 18-24