神経回路とは従来、ニューロンの回路であると考えられてきたが、数にしてニューロンの約10倍あると言われるグリア細胞が神経回路に不可欠の役割を果たしていることが近年次々と分かり、回路の理解にはニューロンとグリアから成る巨大なネットワークを研究することが重要であると言われるようになった。研究代表者はグリア細胞の異常による神経回路網の破綻、それによって引き起こされる運動・行動の異常をゼブラフィッシュをモデル動物として研究している。本年度はグリア細胞で発現するグリシントランスポーター1の変異体shockedについて解析を行った。shocked変異体は刺激による逃避運動が持続せず、本来なら数秒泳動するところを0.5秒程度しか運動しないという表現型を示す。 筋でパッチクランプを行い、運動時の神経から筋への出力を電位変化として記録すると、shocked変異体では一過性の異常な電位変化が見られた。またその持続は泳動の異常に対応して短かった。これはshocked変異体では神経に異常のあることを示している。電位変化のトレースから泳動パターンを理解することができるが、グリシン受容体の阻害剤であるストリキニンを作用させると、持続する泳動の回復が見られた。これはグリシントランスポーターの欠損による異常が急性のものであり、シナプスに過剰量のグリシンが蓄積していることによって起こっているものと考えられる。しかし、回復したとはいえ、本来30Hzで見られる脱分極がストリキニン処理したshocked変異体では15Hz程度しか見られなかったことから、急性の効果以外にも持続的な影響が起こっている可能性も考えられた。
|