研究概要 |
我々は成体において、全ての小脳皮質を欠失し運動失調性症状を示す突然変異マウスcerebellessを得た。このマウスでは、GABA作動性神経細胞が生まれてこないが、グルタミン酸作動性神経細胞は生まれる。連鎖解析から、原因遺伝子としてbHLH転写因子をコードするPtf1aを同定した。Ptf1aは小脳原基脳室帯の放射状グリアで発現するが、cerebellessではその発現が失われる。リニエージ解析から、小脳GABA作動性神経細胞が小脳脳室帯のPtf1aを発現する放射状グリア由来であることがわかり、Ptf1aが小脳GABA作動性神経細胞の発生を司っていることを報告した(Neuron 47,201-213)。さらに、この研究成果を、最近のMath1発現放射状グリアの研究(Neuron 48,17-24&31-43)と対比することで、「異なる種類のbHLH型転写因子による放射状グリアの領域化モデル」を提唱した(Hoshino, The Cerebellum, 2006)。このモテルの概念は終脳にも適用可能であるが、現在、我々はこれがその他の脳領域にも適用できる普遍的なモデル足りうるのかを調べている。発生途上の後脳神経管の放射状グリアとしてはMath1発現領域が最背側であるが、Ptf1aはそれよりやや腹側領域で発現しており、リニエージ解析から、下オリーブ核や蝸牛神経背側核、そのほかいくつかの神経核がPtf1a発現放射状グリア由来であることがわかった。今後は、Math1発現放射状グリア由来の神経核との対比、そしてPtf1aノックアウトマウスにおける表現型などを報告することで、上記モデルを検証したい。さらに、細胞運命を決める転写因子と神経細胞の移動様式、そして放射状グリアとの関連についても調べて行きたい。
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