研究代表者らはすでに延髄孤束核においてATPの投与がシナプス前P2X受容体を活性化して自発的グルタミン酸放出を促進するとともに、細胞外でアデノシンに代謝されシナプス前アデノシン受容体を活性化し活動電位誘発グルタミン酸放出を抑制する事実を報告している。これらのシナプス周囲プリン受容体がアストロサイトから放出されるATPによって活性化される可能性を証明するため以下の実験を行った。 (1)免疫組織化学的方法によってラット孤束核におけるニューロン(NeuN)およびアストロサイト(GFAP)を可視化したところ、高密度のアストロサイトの突起がニューロン周囲の細胞間領域を充満していた。 (2)孤束核シナプスを電子顕微鏡で観察したところ、全体の99%のシナプス前構造はアストロサイト突起と直接接触し、それらはGLT-1およびGLAST陽性であった。 (3)細胞外ATPからアデノシンへの代謝に関与するecto-nucleotidaseとGFAPの共染色を行ったところ、前者は後者の突起上にpuncta状に発現していた。 (4)脳スライス標本において1次求心線維誘発興奮性シナプス後電流に及ぼすATP投与の影響を検討した。Ecto-nucleotidase阻害薬ARL67156はATPのアデノシンA_1受容体を介したシナプス伝達抑制効果に顕著な効果を及ぼさなかった。 (5)GAFP-GFPマウスの孤束核を観察し、ラットにおけるGFAP染色に近いアストロサイトの分布が見られることを確認し、パッチクランプ法によるGFP陽性細胞に対する蛍光色素などの細胞内注入法を確立した。 以上の形態学的な基礎知見を得るとともに基礎技術を確立した。これらの基礎知見に基づき局所的アストロサイトの活性化によるシナプス伝達の修飾機構を解明する。
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