研究概要 |
本年度は,このIrrによる転写制御機構の解明を目指して以下の点について検討を行った. 1.Irrにおける酸素活性化機構 Irrは分子状酸素を活性化してROS(Reactive Oxygen Species)を生成し,このROSがペプチド鎖を攻撃することにより酸化修飾が起き,この酸化修飾が端緒となってIrrの分解が進行すると考えられている.このような酸化修飾を実験的に確認するため,「Oxy Blot」法を用いて,ペプチド鎖の典型的な酸化修飾例であるカルボニル化を検出することを試みた.その結果,Irrはヘムと分子状酸素,還元剤(DTT)存在下において10分以内にカルボニル化されることが確認され,このような反応は他のヘム蛋白質,たとえば酸素貯蔵蛋白質であるミオグロビンではほとんど進行しないことが明らかとなった.以上の結果はIrrが分子状酸素を高い効率でROSに変換すること,さらにそのROSによってペプチド鎖が修飾されること,このような反応はヘム蛋白質においてもIrrで特異的に起こっていることを示している. 2.Irrにおける酸化修飾部位の同定 以上のようなROSによる酸化修飾がどの部位に起こっているのか検討するため,質量分析計によるIrrのペプチドマッピングを行った.その結果,酸化修飾条件下では,分子量3130のN末端側22残基のペプチドに対応するピークの強度が減少し,新たに分子量3246が現れたことから,この領域のアミノ酸残基が酸化修飾を受けたことを示している.このN末端領域はIrrにおけるヘムの配位子であるCys29とも近いことから,ヘムによって産生されたROSが攻撃する場所としても妥当であると考えられる.
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