研究概要 |
本年度は,シトクローム酸化酵素におけるプロトン能動輸送の機構について.特にH-pathにおける従来よりの問題点であった「ペプチドグループを介したプロトン輸送が,どのような仕組みで生じるのか?」について,第一原理電子状態計算を用いて解析した。その結果「以下の反応機構を提案した。すなわち,まずTyr440のカルボニル基に,近傍の結晶水からプロトンが移動する。次にSer411の王鎖におけるアミドブロトンが,Asp51によって引き抜かれる。その結果,Ser411の隣にあるAsp442の主鎖のアミドプロトンが,先のSer411の主鎖に移動しそのアミドブロトンに変わり,欠失を補う。最後にTyr440のカルボニル基に付加していたプロトンが,ASP442の主鎖のアミドブロトンへ移動し,そのプロトンの欠失を補う。このようにして,H-pathにおける一連のプロトン移動が誘起したTyr440へのプロトンの付加が,Asp51によるSer411のアミドプロトンの引き抜きを誘起し,その後ドミノ倒しに似た機構により近傍のプロトンどうしが移動することにより,元のペプチドグループへと復帰する仕組みが,電子状態変化と共に提案された。これらは,Asp51を含むタンパク質構造の柔軟性と,Tyr440-Ser441を中心とした領域の硬い立体構造とが組み合わせされて実現した反応機構であり.タンパク質構造の機能的なアーキテクチャを解明したものである。 そこで次に,これを分光学的実験により検証するために,以上の反応機構において分光学的に検出することの可能な電子構造を同定するため,電子状態変化の詳細な解決を実行した。その結果,実験的なプローブになり得る立体構造とその電子構造を見出し,共鳴ラマン分光法による実験をデザインするに至った。今後,本特定領域における実験グループとの密接な共同研究により,本提案の検証を推進する予定にある。
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