鉄硫黄(Fe-S)タンパク質は、非ヘム鉄と無機硫黄原子から成るFe-Sクラスターを持つタンパク質の総称で、構造と機能は多種多様、大腸菌では全タンパク種の3%以上を占める。これらFe-Sタンパク質の機能発現において、Fe-Sクラスターの形成は必須である。我々は近年、クラスターの生合成を担う二種の独立したマシナリー(ISCとSUF)を明らかにし、反応メカニズムの解明を進めている。本研究ではSUFマシナリーの心臓部、SufBCD複合体の構造に焦点を置いて研究を進め、以下の成果を得た。 1.大腸菌SufBCD複合体の発現系を改良することで均一な標品を調製することができるようになった。さらに複合体の構造をロックすることを期待して、SufCのWalker A/Bモチーフに種々の変異を導入し、それぞれの標品についても検討したが、未だ結晶は得られていない。一方、超好熱菌の複合体についても発現系を構築し、Archaeoglobus fulgidusのものでは低分解能ながら結晶を得た。 2.SufBC、SufBDあるいはSufCDというサブコンプレックスの可能性についても検討した。これら任意の2成分を組み合わせて過剰に発現させたところ、SufCとSufDが可溶性の複合体を形成することを見出し、精製と生化学的な解析に続いて結晶化に成功した。SufC_2SuD_2から成る複合体の構造を2.2Å分解能で決定することにより、これらの結合様式の詳細が明らかになり、またSufCはSufDと結合することによってその構造を"latent form"から"competent form"に変化させることが判明した。この構造変化は、SufCに特有の活性調節機構と考えられる。さらにこの構造から、SufBCD複合体の会合状態についても重要な示唆が得られた。
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