病原細菌の宿主への感染の中核的働きをするものは細菌が細胞表層に持つ病原因子輸送装置である。各々の病原細菌は宿主との相互作用の結果、特化した輸送装置を進化的に獲得してきた。レジオネラはDNA輸送系から派生したIV型分泌系に分類されるタンパク質輸送装置を持ち、その作動原理は解析の進んだIII型分泌系を含む既知のタンパク質輸送装置とは概念的に異なるものであることが期待される。我々は、レジオネラのIV型分泌装置の分子構造および構成タンパク質の原子構造を解明することにより、IV型分泌系固有のタンパク質輸送の作動原理の解明を目指して研究を進めている。 18年度には、まずレジオネラ細胞表層を可視化処理することにより、細菌の細胞表層に存在する構造体を電子顕微鏡で観察することから試みた。様々なIV型分泌系の予想される構成タンパク質の欠損変異株及び病原性を有する親株で観察をした結果、III型分泌系に特徴的な針状突起のような特異的な表面構造は見出されなかった。IV型分泌系を構成すると予想される多くのタンパク質は実験条件下ですでに発現していることなどから、細胞外には突起しない独自の形状をIV型分泌装置は有すると現時点で考えている。 また、18年度までにIV型分泌装置を構成する10数種類の候補タンパク質の欠損変異株を網羅的に作製し、そのうちの数種類の重要と考えられるタンパク質に対しては抗体の作製も行った。これによって、今後の構成タンパク質同定のための実験的準備はほぼ整った。さらにレジオネラ細胞を破砕して膜画分を単離し、さらに膜を可溶化して膜上に存在する超分子集合体を精製する生化学的手法をほぼ確立した。今年度は粗精製された構造体に含まれるタンパク質を様々な変異株で比較することにより、構造体の構成タンパク質の同定のための手がかりを得ることができた。
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