研究概要 |
ゲノムがもつ遺伝情報を正確に複製し子孫に伝達するためのDNA複製過程では、多くの関連因子がレプリソームと呼ばれる超分子複合体を形成し、精密に制御されながら複製フォークを進行させる。レプリソーム超分子複合体を構成する複合体構成成分の中で、18年度は特に不連続合成鎖を担う複合体に力を入れて解析に取り組んだ。材料は超好熱性アーキアであるPyrococcus furiosusとAeropyrum pernix由来のDNAリガーゼ、PCNA、DNAポリメラーゼ、FEN1エンドヌクレアーゼを用いた。Okazaki断片のモデルDNAを合成し、これらの蛋白質と共に複合体を形成させて、ゲルろ過によって単離し、結晶化と共に電子顕微鏡観察を試みた。また、DNAリガーゼによるOkazaki断片の連結反応がPCNAによって促進される分子機構解明のための、構造機能解析を行った。まず、P. furiosus由来のDNAリガーゼの結晶構造を決定して発表した。DNAリガーゼ反応はP. furiosus細胞中のような高塩濃度環境下では活性を示さないが、PCNAとの結合により反応が促進されることを実証し、その際の相互作用様式を明らかにした。この相互作用様式は、これまでのPCNA-PCNA結合蛋白質相互作用に見られるものと異なり、アーキアのDNAリガーゼ-PCNA間で保存されている新規のものであった。アーキアと真核生物では遺伝情報伝達系に関わる蛋白質の相同性が高く、この実験結果からヒトDNAリガーゼ-PCNA間にもこのような相互作用が存在することを提唱した。 A. pernixに存在する3種のPCNA (PCNA1,PCNA2,PCNA3)の構造・機能解析を進めた。その結果、このPCNAはPCNA2だけのホモ3量体のほかにPCNA2と3または1,2,3からなるヘテロ3量体の3種の複合体構造を形成しうることを証明し、それによって細胞内での機能を分担して担っていることを提唱した。2種類のDNAポリメラーゼ、PolI, PolIIのうちPolIIは3種のどのPCNAとも同様の親和性を持って結合するが、PolIはPCNA2に特異性を示した。またRFC, DNAリガーゼ、FEN1エンドヌクレアーゼは、それぞれ、PCNA2,PCNA3,PCNA2との特異的な相互作用を有することがわかった。
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