トランスポーチン(Trn1)は20個のHEATリピート(H1-H20)から構成されたS字状分子である。Trn1に特徴的なHEATリピート8(H8)から長く伸びたループ(H8ループ)は構造解析した4つの構造すべてにおいてディスオーダーしてその電子密度は確認できなかった。過去に報告されたTrn1-RanGTP複合体の構造と今回の4つの構造を比較すると、N末端側の7つのHEATリピート(H1-H7)において大きな構造変化を起こしていることがわかった。この構造変化はRanGTP結合によりそれぞれのHEATリピートを少しずつ構造変化させており、結果として大きな構造変化が生じていた。一方、C末端側の7つのHEATリピート(H14-H20)の領域は相互作用する基質(NLS)によって構造変化の程度が異なっているが、このC末端側の構造変化はN末端側とは異なり、H13とH14の間を支点としたヒンジベンディングモーションであった。一方、Trn1による基質認識については、Trn1の2箇所の領域(SiteとSiteB)でそれぞれ異なる親和力(SiteA>SiteB)、かつ、SiteAではB-X(2-5)-PY、SiteBでは疎水性残基を介した相互作用で認識されることがわかった。 4つの構造すべてにおいてディスオーダーしていたH8ループは、過去に報告されたTrn1-RanGTP複合体においてはその電子密度が確認され、基質認識(結合)に関与するSite BにおいてTrn1のC末端側のHEATリピート(H14-H20)と相互作用している。したがって、H8ループはRanGTPが結合していないときはその大部分がディスオーダーしているが、RanGTPが結合すると大きく構造変化を起こし、基質(NLS)と弱く相互作用していたSite BでTrn1と強く相互作用するようになることがわかった。以上のことから、核内では、まず、RanGTPがN末端側のHEATリピート(H1-H7)に結合することによりH8ループがSite Bの方に大きく構造が変化し、その結果、Site Bで弱く相互作用していた基質(NLS)と立体障害を起こして基質が解離していくことが明らかとなった。
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