研究概要 |
今年度はまず,硫酸還元菌Desulfovihrio vulgaris HildenboroughよりHypEとHypFタンパク質の遺伝子のクローニングを行い,大腸菌発現系を構築し,大量発現を試みた.HypEについてはヌクレオチド結合能を持つ安定な試料が得られ,アフィニティークロマトグラフィー等により高純度な試料を大量に生成することができた.HypFについては,発現系の改良や誘導条件の最適化により培地1リットルあたり2-3mgの高純度な試料が得られるようになった.HypFはHypEと物理的な相互作用を示す事が予想されたが,pull-down, native PAGEなどの実験では精製されたタンパク質間に相互作用は認められなかった.また,HypE, HypFによるニトリル基合成反応はATP依存的である事が分かっており,精製したHypE, HypFともに単独でATP加水分解活性を持つことを確認できたが,この活性については両タンパク質間の協同性は見られなかった.そこで,HypE, HypF単体での結晶構造解析による部分的な反応機構の解明を試みた.HypEについては結晶化条件の検索,最適化を行った結果,構造決定に十分な回折能をもつ良質な結晶が得られた.セレノメチオニン誘導体結晶を用いてMAD法により位相決定を行い,ヌクレオチドを含まないアポ型では2.6Å,ATP結合型では2.0Å分解能で構造を決定した.その結果,カルバモイル基が転移されると考えられているC末端のCys341はタンパク質内部に位置し,結合したATPのγ位のリン酸基に隣接していることが分かった.決定したATP結合型構造にカルバモイル基を仮想的に配置することによって,この状態はカルバモイル基からニトリル基への脱水反応を行う活性型であることが示唆され,反応に重要であると考えられる部位,残基を推定することができた.
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