研究概要 |
チトクロム酸化酵素は分子状酸素を還元し水にするとともにプロトン(H^+)を膜内側から外側に能動輸送(ポンプ)する膜蛋白質複合体である。水形成反応とH^+ポンプによって生じる膜内側が負の膜電位とH^+濃度勾配によってATP合成が駆動される。ウシ酵素のX線構造解析結果は、ヘムaによって駆動されるH^+ポンプ経路(H-pathwayと呼ぶ)を示唆する。この経路は、膜内側分子表面から分子内部に伸びる水分子が通れるスペース(水経路)と、これに続く水素結合ネットワークとから構成され、経路の膜外側末端の酸性アミノ酸残基(D51)は、H^+汲みだし部位、水素結合ネットワークに含まれるペプチド結合は一方向性のげ移動部位、そして水経路は膜内側H^+を集める部位である。本年、ペプチド結合を介するH^+移動を阻止する変異と水経路を閉塞させる変異が、それぞれ酸素還元活性には影響を与えないが、H^+ポンプ活性を消失させることを報告した(PNAS104,4200,2007)。この成果とD51の変異結果(PNAS,100,15304,2003)は、H-pathwayがウシ酵素のH^+ポンプ経路であることを強く示唆する。ウシ酵素のH-pathwayと相同な構造が、細菌酵素のX線構造にも認められるが、経路末端の酸性アミノ酸残基に代わり、グリシンと2分子の水分子が配置されており、水分子を介したH^+輸送が示唆される。水の機能を検討するために、Paracoccus denitrificans酵素の水分子を排除する変異(G84とI476の変異)を試みたが、変異はH^+ポンプ効率(電子伝達当量当りのポンプH^+量)に顕著な影響を与えなかった(昨年度の成果)。このH-pathwayに含まれるペプチド結合(Tyr475-Lle476)を介するH^+移動を阻止する変異も、上と同様にH^+ポンプ効率に影響を与えなかった。このペプチド結合に膜内側H^+を供給する経路の水分子は、隣のペプチドにもH^+を供給できるため、結果の評価は単純ではないだ、現在ウシ酵素と相同な細菌酵素のH-pathwayの機能を支持する変異体結果は得られていない。H-pathwayの水素結合ネットワークに分岐ネットワークの存在が示唆され、現在検討中である。
|