一酸化窒素還元酵素(NOR)は脱窒過程の中で一酸化窒素を亜酸化窒素に還元する。また、この反応は嫌気呼吸による生体エネルギーの合成に共役していることから、一酸化窒素還元酵素は嫌気呼吸を支える重要な酵素の一つとなっている。好気(酸素)呼吸系でこの酵素に対応するのがシトクロムc酸化酵素であり、両者は進化的に関連が深いことがアミノ酸配列などから明らかにされている。これら呼吸酵素の機能発現の仕組みを解明する鍵を握るのは短寿命な気体分子・呼吸酵素複合体である。本研究ではNORと一酸化窒素との複合体を安定に捕捉し、振動分光法によって解析することで活性部位の構造を明らかとし、その機能発現のメカニズムを解明することを目的としている。低温で凍結させた酵素を高圧ガスに曝露し、強制的に気体分子を試料内部に浸透させ短寿命な気体分子-蛋白質複合体を調製するクライオガスサイターを平成18年度に開発した。本年度は本装置を活用し、NORと一酸化窒素や分子状酸素との複合体を調製する条件検討を進めた。一酸化窒素ついては窒素ガス圧0.5気圧、-93度で20分間処理することでNORとの複合体と推定される化学種が吸収スペクトルにより観測された。また、酸素ガス圧10-20気圧、-53度で40分間処理することで酸素複合体の調製を試みた。調製した気体分子NOR複合体試料はナノリットルオーダーの微量であり、室温では不安定なため、その振動分光解析を行うため顕微低温共鳴ラマンスペクトル測定装置を兵庫県立大学の小倉教授らの協力の元整えた。本研究で確立した短寿命気体分子一酵素複合体の調製方法および測定装置をもちいて今後は複合体の詳細な振動分光解析を進めていく計画である。
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