今年度はMAPEGファミリーのメンバーであるMicrosomal Glutathione Transferase 1(MGST1)について、その二次元結晶を用いて3.2Å分解能の結晶構造を電子線結晶学により明らかにした。このタンパク質はグルタチオンを利用した、酸化ストレスへの対応や解毒のための生体内変換を行う。その立体構造は、1分子が4本の膜貫通・-ヘリックスから構成され、膜内では三量体として12本のヘリックスから成る、シトクロムcオキシダーゼのサブユニットIと似た、安定な膜貫通部分を持つことが明らかになった。また、三量体の分子間にあるグルタチオンの結合サイトも同定でき、酵素活性の調節に三量体の相互作用が関与していることが示唆された。 このような電子線結晶構造解析の経験や技術を利用して、X線結晶構造解析により原子モデルが既に得られているThermos thermophilus由来のシャペロニンGroEL-GroES-ADP複合体を天然から得て、その単粒子解析を進めている。天然から得た試料は、翻訳されたポリペプチドが折り畳まれるために、複合体中に取り込まれており、基質も含んだ複合体となっている。現在、その立体構造が2.5nm分解能で得られており、そのcis-cavity中に、いろいろな基質が平均されたと考えられる電位図を観察することができる。このような密度はX線結晶構造解析では見られなかったが、これは高分解能では基質が平均されることで明瞭な密度を与えることができなかったためと考えられる。また、X線結晶構造解析では、シャペロニンが7回対称性を持っていなかったが、単粒子解析においても同様にcis-cavityに近い部分が7回対称性からずれていることが観察でき、基質とシャペロニンとの相互作用により、このような対称性の破れが起こっていることが示唆された。
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