機械的刺激が特定の因子の細胞内局在を変化させて反応する系が存在することを証明し、機械的刺激によって核内へ移行する因子の単離を行ない、複数の新規遺伝子をクローニングした。そのひとつCrip2は、他のT-box型転写因子Brachyury(No tail)に発現調節されている。Brachyuryは脊索の発生、とくに細胞の動的な変形と移動を伴う形態形成に重要であるが、この因子はその標的として脊索のダイナミックな形態形成を制御していることを明らかにした。また、前述したFrizelled/Dishevelled/Daaml複合体とも会合し、これとアクチン骨格、integrin(Paxillin、FAK)とを結びつけるものであった。脊索形成時には、脊索細胞は突起を伸長しながら形態を変化させるが、この因子は、integrin/Paxillin/FAXが存在する伸長部位と核を往復するように動く。これは、形態形成時の脊索細胞の変形によるひずみがCrip2蛋白の移行を引き起こし、核内にシグナルを伝えていることを示している。興味深いことに、核内でβ-cateninによるcanonical Wntシグナルを完全に抑制する。したがって、canonical、non-canonical Wntシグナルの真のスイッチとして機能していると考えられる。この因子は、心臓にも強い発現を示し、機能阻害は心臓発生の異常、とくに心房心室境界部に異常を引き起こすことがわかったが、心拍を止めた心臓で、この因子の心筋細胞内局在をみると、核内局在と細胞質内局在のどちらも正常と明らかに異なっていた。このことは、心臓に加わる機械的刺激の応答に必須であることを示唆している。心房心室境界部に形成される房室弁形成には、血流や心筋拍動による機械的刺激が関与すること、β-cateninによって正に調節されることが知られている。拍動する心筋細胞では、Crip2は細胞室に主に分布し、核内から出る。逆に拍動しない心筋では核内に流入する。 他にも機械的刺激によって、核内に移行し転写調節する因子を複数同定し、解析を行なった。
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