細胞がその機能を果たすためには数多くの遺伝子が協調して働く必要があり、それらの遺伝子の発現が適切に制御されることが不可欠である。個々の遺伝子が特定の転写因子などによる、詳細な制御を受けるためには、その遺伝子を含む広範な領域全体が、ある意味ではグローバルな制御を受ける必要がある。そのような制御にともなって、クロマチンあるいは染色体の部分構造が変化することが知られており、このような構造の変化によって初めて転写因子などがその標的とする遺伝子に接近できると想定されている。このような遺伝子、あるいは染色体領域の状態は、通常細胞の増殖では維持されるが、細胞が分化する場合などには動的に変化する。免疫系では、抗原受容体の遺伝子において単なる遺伝子発現の制御に留まらず、組換えや突然変異導入というゲノムそのものの変換を伴う機構がその機能発現と細胞分化に重要な役割をもっている。 本研究は、Bリンパ球の初期分化、活性化、最終分化それぞれの過程に重要な機能を果たしている遺伝子座、ことに抗体遺伝子の組換えをモデル系として遺伝情報のデコードとクロマチン修飾などによるエピゲノム性調節制御との回路を解明することを目指している。その結果、この遺伝子組換えに必須な因子であるAIDの遺伝子発現を調節し、あるいは組換えの標的特異性と組換えの場を制御する因子としてPax5、E2A、SIP、NFκ B、IRF4、Runxl-3などが同定され、これらがTGFβ1シグナルの下流で作用するId2とともに、エピゲノム性調節制御の回路を形成していることが明らかになった。また、これらの因子群は、2次、3次リンパ組織のダイナミックな構築変化・形成による微小環境の影響を受け、時には冗長な、時には相反する機能を発現し、その制御を複雑化していることも判明した。同時に、これらの因子の発現が微小環境形成に影響を与えていることが判明した。加えてこればで培養条件下では効率よく誘導することが困難であったIgAへのクラススイッチ組換えを誘導する刺激の組み合わせを明らかにできた。
|