ショウジョウバエの唾腺の器官培養系にエクダイソンを加えると、タンパク合成阻害剤存在下でもdBlimp-1 mRNAが誘導されることから、dBlimp-1遺伝子はエクダイソンによって直接誘導されると考えられた。また、1.5時間という短期間の培養時間でもシクロヘキシミド存在下でdBlimp-1 mRNAの蓄積量がエクダイソンのみを加えた場合より増加することから、mRNAはturn over速度が極めて速いと推定された。さらに、熱ショックプロモーター依存的に強制発現させたdBlimp-1タンパクは誘導後約2時間で消失することが明らかになり、この因子はタンパクレベルでもturn over速度が極めて速いことが判明した。これらのことから、dBlimp-1は、エクダイソンによってその遺伝子が直接誘導され、高エクダイソン時にのみ存在するようにコントロールされている因子であると考えられ、このことによって時期特異的に発現することが重要な転写因子βFTZ-F1の発現時期を制御していると考えられた。一方、dBlimp-1を前蛹期中期に発現させて、本来の発現時期よりも発現期間を長くしたところ、蛹になるタイミングが遅延することが明らかになった。次にftz-f1変異株(前蛹期で発生が停止し蛹化しない)の前蛹期の様々な時期に熱ショックプロモーター依存的にβFTZ-F1を強制発現させたところ、本来のβFTZ-F1発現時期での発現では本来のタイミングで蝋化が観察されたが、βFTZ-F1の発現時期を遅らせると蛹化のタイミングも遅延した。以上のことから、dBlimp-1はβFTZ-F1の発現のタイミングを制御することによって蛹化のタイミングを決定するという遺伝子発現制御ネットワークが明らかになった。また、この実験でβFTZ-F1の発現時期を遅らせるほど蛹化の効率が低下したことから、蛹化のタイミングを決定する要因が他にも存在すると推定された。
|