クロマチンの構造変換の一つの代表であるヘテロクロマチン化は、遺伝子発現の抑制を引き起こし染色体形態を凝集型に大きく変化させる。それは本質的には可逆的な反応であるため、ヘテロクロマチン領域の形成にはクロマチン構造の確立と維持の二つの作用が必要である。一方で、ヘテロクロマチン領域自身は特異的なピストン修飾やその修飾依存的結合タンパク質の凝集などによって特徴づけられており、ヌクレオソーム構造の共通性故にヘテロクロマチン化は近隣のクロマチン領域に伝播していく潜在能力を持つ。分裂酵母ではヘテロクロマチン形成にRNAi装置が必要なことが判明しており、siRNAを含んで拡散能力を有するRNAi装置がヘテロクロマチン構造変換の及ぶ領域の局限化に機能している可能性が挙げられる。そこで、分裂酵母セントロメアのヘテロクロマチン領域より産生されるsiRNA前駆体RNA分子の転写プロモーター部位について、リポーターアッセイを用いて解析を行った。その結果、同一領域の双方向転写を起こすようなプロモーターの配置が確認され、RNAi反応の引き金となる二本鎖RNAの生成経路の一端が提示された。しかし、前駆体RNAの辿る運命についてRNAi装置の変異株を用いてマッピング解析を行った結果、個別に転写されたRNA2分子の会合による二本鎖RNA形成はRNAi経路の主要な引き金ではないことが判明した。むしろ、前駆体RNAに特異的に存在する配列(SIRE)が二本鎖RNAの形成とsiRNA産生およびその後のヘテロクロマチン確立に積極的に働くことを、SIREを用いた異所的な転写アッセイによって示すことに成功した。またセントロメアヘテロクロマチンの拡大及び局限化にsiRNA配列の貢献は小さいことも異所的転写アッセイによって明らかにし、RNAi経路は主にヘテロクロマチンの新規確立に貢献していると結論づけた。
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