細胞は、環境からのシグナルを受け取ってゲノムに保存された遺伝子情報を選別し、発現制御することで様々な機能を果たしている。発現制御は、シグナルの種類だけではなく、それを受け取る細胞の「応答性」にも依存している。従って遺伝情報の読み出し制御機構を理解する上では、細胞の応答性を司る分子機構を明らかにすることが極めて重要であるが、未だ不明である。本研究では、シグナルに対する応答性に異常を示す様々なゼブラフィッシュ突然変異体の単離・解析を行い、遺伝情報の読み出し制御に関与する分子機構の解明を目的としている。本年度は、申請者が既に単離しているシグナル応答性異常ゼブラフィッシュ突然変異体のうち、3系統に特に注目して解析を行った。 1)kt641変異体では、体節や心臓の形成異常、色素細胞の欠失が見られた。分子生物学的な解析によって、Delta/Notchシグナルめ標的遺伝子の発現が減弱していることが明らかになった。さらに、この変異体の原因遺伝子が胚発生過程で普遍的に存在する核タンパク質であることを、遺伝学的マッピングや機能阻害実験、レスキュー実験、シークエンス解析によって明らかにした。 2)kt280変異体は、体節と中枢神経の形成に異常を示す。領域特異的な発現を示すマーカー遺伝子の発現解析から、FGFシグナルの標的遺伝子の発現が低下していることを明らかにした。また、遺伝学的マッピングとシークエンス解析によって原因遺伝子の候補を絞り込んだ。 3)kt541変異体は、中胚葉特異的遺伝子ntlを外胚葉領域でFGFシグナル依存的に発現しており、FGFが制御するべき標的遺伝子の選択に異常を示すと思われる。この変異について、遺伝学的マッピングを行い、原因遺伝子がコードされている染色体をつきとめた。
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