研究概要 |
哺乳類ポリコーム群複合体は構造的・機能的に2つの複合体(クラス1,クラス2)に大別される. クラス1タンパク質Suz12の役割 Suz12-/-ES細胞(Suz-KO)では,クラス1複合体の不安定化とそれに付随したH3-K27メチル化レベルの著しい低下が起きる.そこへSuz12 Znフィンガードメイン(RbAp48結合領域)を含む(suz-1)あるいは含まない(suz-2)C末領域を発現させると,どちらもクラス1複合体の安定化と共にH3-K27メチル化も正常値まで回復する.そこで,これらES細胞のマイクロアレイ解析を行った.Suz-KOでは264個の遺伝子で野生型と比べ5倍以上の脱抑制が起こっていたが,そのほとんど(230遺伝子)でsuz-1およびsuz-2の発現によって野生型レベル(回復率80-200%)まで再抑制されることがわかった,また,期待に反して,suz-1とsuz-2に顕著な違いが見られなかった.概して,ES細胞未分化状態を維持する条件下でのクラス1複合体による発現抑制には,Suz12のC末領域だけあれば十分であり,RbAp48非依存的であることが示唆された.しかしながら,ES細胞を分化状態にした時に,Suz12N末領域およびRbAp48の役割が見えてくるのではないかと思う. クラス2複合体とmRNAスプライシング因子との機能的リンク スプライシング反応の前期で作用する必須因子Sf3b1およびSf3b2の各ヘテロ欠失マウスはポリコーム群変異体と同じようにHox遺伝子群の脱抑制に伴う背骨の後方化異常を示す.では,後期で作用するPSFではどうなるか?これを調べるために,PSF欠失マウスを作製した.同じようにPSF+/-個体の背骨を調べたところ,全く正常であった.さらに興味深いことに,PSF変異はSf3b1+/-,Sf3b2+/-,ポリコーム群変異マウス(Me118+/-,Rnf2+/-,Phc2+/-)による後方化異常を抑えた.この理由として,ポリコーム群複合体の機能不全によりHox遺伝子群は誤転写されたが,PSFの不足によってその転写産物はスプライシングされなかったと考える.これらの結果は,クラス2複合体とスプライシング因子との機能的リンクがスプライシングの前期に存在していることを示唆するものである.
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