研究概要 |
植物細胞内外の物質輸送をつかさどる細胞膜は、動物細胞と同様リン脂質を主要な成分としている。しかし、植物をリン欠乏条件で生育させると、細胞膜やミトコンドリア膜に存在するリン脂質の大半が糖脂質に転換され、膜中にプールされていたリンが細胞内部に大量に放出される。このような栄養飢餓条件での膜脂質成分の転換は、イオウ欠乏など他の栄養飢餓条件でもそれぞれ異なる変動を示すこともわかってきた。生体膜脂質は膜輸送を行うための「場」を提供しており、,このような大きな「場」の転換は膜で行われる輸送系に甚大な影響を及ぼしていると考えられる。しかし、膜脂質構成成分の変化が植物の養分吸収の効率や膜輸送にどのような影響を及ぼしているかは全く未知である。そこで本研究では、膜輸送の場としての膜脂質の重要性を明らかにするための基礎的研究としてリン欠乏応答とイオウ欠乏応答に着目し、栄養欠乏条件でも膜脂質転換の起こらない変異体の単離・解析を行う。 平成18年度の研究から、リン欠乏時のリン脂質の分解にphospholipaseC5(NPC5)が関与することがわかったが、NPC5のノックアウトはリン欠乏時の糖脂質の蓄積(DGDGの合成)は完全には無くならないことから、別の経路が存在すると考えられた。実際、リン欠乏時のリン脂質の分解にはphospholipaseDも関与することが示唆されている。そこで、我々はこれらの反応に関わるPAPを同定するため、各種生物からPAPの候補遺伝子を網羅的に探索し、その機能を解析した(Nakamutra et a1.,J.Biol.Chem.2007)。その結果、特に小胞体でのPAの分解に関わると思われる候補遺伝子PAH1,2を同定した。これらの遺伝子は2006年に酵母で発見され、脂質代謝に関わると考えられている遺伝子(PAH)のホモログである。これらの遺伝子は単独のノックアウトでは顕著な表現型を示さなかったが、pahlpah2の二重変異体は、特にリン欠乏時に顕著な生育阻害を示すことがわかった。
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