根毛は地下外部環境との境界を形成し、土壌からの物質輸送において中心的な役割を果たす。根毛の発生および伸長は遺伝的プログラムにより規定されているだけでなく、環境要因によっても大きく影響を受ける。根毛の役割から考えると、土壌栄養素条件はそのような環境要因として特に重要であるが、土壌栄養素条件が根毛の発生パターンや、形態に反映されるに至る情報伝達過程に関しては全く判っていない。本研究では、根毛を土壌栄養素吸収のための機能構造と捉え、無機栄養素の濃度という環境シグナルが、根毛形態制御へと変換される分子機構について解明しようと試みた。 PLDz2のリン酸欠乏時における役割を調べるために、機能欠失型突然変異体におけるリン酸欠乏応答を解析した。しかし、様々なリン酸濃度条件において、植物体全体の生育、根の伸長、根毛の伸長の全てで野生型植物体と同様であった。このことから、可能性の一つとして、PLDz2と重複的な機能を有する遺伝子の存在が考えられた。 根毛伸長の正の制御因子と考えられるPIPキナーゼ、PIP5K3の機能解析を行った。その遺伝子の突然変異体では根毛の伸長が抑制され、また、過剰発現により根毛の伸長が促進された。YFPとの融合タンパク質PIP5K3-YFPのPIP5K3プロモーターによる発現はpip5k3突然変異体の形質を相補することができた。このタンパク質の細胞内局在性を観察した結果、PIP5K3-YFPは根毛発生の極初期段階から根毛先端の細胞膜およびその周辺の細胞質に局在し、根毛伸長の終止とともに速やかに消失することが判明した。これらのことから、PIP5K3は、根毛先端において根毛伸長を量的に制御する因子であると考えられる。ちなみに、pip5k3突然変異体においてもリン酸欠乏による根毛伸長の促進は起きるので、リン酸欠乏に応答するPIP5Kが他に存在することが考えられる。
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