環境変化に迅速に適応するため、真核生物にはストレス応答MAPK情報伝達経路が存在する。出芽酵母では高浸透圧適応に関わるHOG経路、接合フェロモン経路、栄養条件に応答する擬菌糸経路が存在するが、G蛋白質のCdc42など複数の因子を共通のシグナル因子として有するため、特定刺激に対する特定経路のみの活性化を保証する機構がシグナル特異性の維持に必須である。そこで我々は高浸透圧刺激によってCdc42が活性化される機構について、特に高浸透圧ストレス感知の分子機構に焦点を絞り解析した。Cdc42が働くHOG経路の上流支経路のSHO1経路において、不明であった高浸透圧感知に関わるセンサー因子を探索したところ、二つの膜貫通型ムチン様蛋白質のHkrl、Msb2がSH01経路における高浸透圧センサー機能を有することを見いだした。Hkr1/Msb2はセリン・トレオニンに富み高度に糖鎖修飾された細胞外ドメイン(ST-rich領域)を有しており、この領域を欠失すると恒常的活性型になり、別の膜蛋白質のSho1を介してHoG経路を活性化する。また、ST-rich領域の長さを変えると浸透圧に対する細胞の反応性が変わることから、ST-rich領域は高浸透圧感知に重要である。以上から我々はSH01経路における高浸透圧感知の分子機構として、Hkr1/Msb2内ST-rich領域の糖鎖のゲル構造が高浸透圧環境下で変化し、マスクされていたSho1との相互作用ドメインがSho1と結合して活性化シグナルを細胞内に伝達する、見というモデルを提唱した。SH01経路においてムチン様膜蛋白質による高浸透圧の感知システムを新たに発見したことは、高浸透圧ストレスが特定のMAPK経路を特異的に活性化する機構の解明に貢献したばかりでなく、動物細胞など他の高等真核生物における高浸透圧センシング機構の解明の手がかりになると考えられる。
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