網膜視細胞の桿体のトランスデューシン(Gt)は三量体G蛋白質のなかでもその活性の定量的理解がもっとも進んでいる例である。Gtは活性型視物質で活性化され、cGMPホスホジエステラーゼ(PDE)を活性化する。脊椎動物視細胞には桿体に加えて錐体があり、桿体と同様な三量体Gタンパク質シグナル伝達系が存在する。これまでの我々の研究により、錐体Gtによる錐体PDEの活性化は桿体Gtによる桿体PDEの活性化効率よりも低いことが分かっている。本研究では、錐体での低いPDE活性化効率がどのような分子レベルにおける桿体と錐体との違いによるのかを明らかにする。 平成18年度は、下記について研究を行った。 1.錐体でPDE活性化効率が低い理由の検討 GTPγSを結合した活性型桿体Gtを得、これを暗中で桿体膜、錐体膜に加えた。活性型桿体Gtによって生じるPDEの活性化を測定したところ、桿体膜と錐体膜とで同等のPDEの活性化が生じた。従って、錐体でPDE活性化効率が低いのは錐体のPDEが活性化され難いためではなく、錐体GtのPDE活性化能が低いためであると考えられる。 2.活性型Gtの不活性化反応(寿命)の測定 活性型Gtは、結合したGTPが、GDPに分解されることで不活性化する。桿体に比べ、錐体の光応答はより短時間で終息することから、錐体では、Gtの不活性化(GTPの分解)が桿体よりも素早いことが予想される。single turnover assay法を利用して桿体膜と錐体膜とでGTPの分解(活性型Gtの不活性化)の時間経過を測定した。その結果、錐体でのGTP分解の方が桿体での分解よりも圧倒的に早いことが分かった。しかし、錐体でGTP分解(Gtの不活性化)が早いとはいえ、電気的応答が終息する時間よりは遙かに遅いことから、今後はさらに生理的な条件で検討していく予定である。
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