研究概要 |
低分子量G蛋白質RasのGTP結合型(Ras-GTP)には、標的蛋白質との結合能力を有する"ON"状態(state 2)と有さない"OFF"状態(state 1)の2種類の構造が相互変換可能な状態で混在することが、H-RasなどRasファミリーに属する一部の分子の^<31>P核磁気共鳴法(NMR)により明らかになっている。本研究では、Rasの関与するシグナル伝達系において、stateの相互変換というRasの高次構造の多型性(ポリモルフィズム)が果たす役割を明らかにするために、Rasファミリーに属する種々の分子のstate解析を行った。^<31>P-NMRにより、2つのstateの存在比率は、Rap1AとRap2Aではstate 2が90%以上,H-Rasではstate 1/state 2=40/60(%),RalAでは70/30(%),M-Rasではstate 1が90%以上であることが明らかになった。Stateの存在比率とRasの機能との関係を調べたところ、state 1の存在比率が高い分子ほどGTP結合/解離速度が速いことが明らかになった。これまでのX線結晶構造解析によって、state 1の存在比率が高い分子(M-Ras-GTP,RalA-GTP)では、GTP結合領域であり尚且つ標的認識部位としても重要な2つのswitch領域(switch I,II)に、ポケット構造を有することが明らかになっている。ポケットがある(開いている)構造では、GTPは溶媒側に露出している。一方、H-Ras-GTPやRap-GTPで明らかになっているstate 2構造では、ポケットが閉じておりGTPの溶媒への露出も少なくGTPの解離が困難な高次構造になっている。以上の結果から、Rasはstate 1構造においてGTPを結合/解離する可能性が示唆された。
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