低分子量G蛋白質Rabファミリーは小胞輸送に関与する重要な分子であるが、多細胞動物の発生・分化や恒常性維持における生理的役割は不明なものが多い。線虫Caenorhabdiis elegansは多様な組織から構成され、ヒトと本質的には共通の生物学的特性を持った単純な多細胞動物である。本研究課題は線虫Rabファミリーおよびその関連遺伝子の体系的な遺伝子ノックアウト解析により、Rab蛋白質の個体レベルでの生理機能を明らかにすることを目的とする。平成18年度は生体におけるRabの作用機構を解析するための遺伝的リソースを作成した。線虫ゲノム上にはヒトRabの約半分に相当する29個のRab遺伝子が存在する。TMP/UV法で線虫ゲノム内にランダムに欠失変異を導入したmutant bankを各Rab遺伝子のプライマーでPCRスクリーニングし、欠失変異体を分離した。欠失部位のシークエンス解析を行い、エクソン配列を欠失していることを確認した。得られた変異体は野生型線虫と数回戻し交配を行い、二次的な変異を取り除いた。酵母Rabと共通の線虫Rab遺伝子の変異体はほとんどが致死となり、線虫個休の生存に必須の役割をもつと考えられた。一方、酵母ゲノムには存在しない多細胞動物で獲得されたRab遺伝子の変異体は致死にならないものが多く、特定の組織や細胞における特異的輸送経路での機能が予測された。また、Rab遺伝子と関連するRabGAP、Rab effectorや、小胞輸送のドッキング/融合過程に関わるSNAREs、Sec1/Munc18(SM)などの変異体も作成した。これらの変異体の表現型を特定の輸送経路やオルガネラを可視化する蛍光マーカーで解析した。現在までにRab5の下流でRabenosyn-5とSMファミリー分子のVPS-45が協調して液相エンドサイトーシスおよび受容体を介したエンドサイトーシスの両過程に働くことを見出している。さらに変異体のレスキュー活性を指標とした機能アッセイや多重変異によるエピスタシス解析を行うことにより、各Rab蛋白質の生理的役割を明らかにしていく予定である。
|