研究概要 |
申請者らはイノシトールリン脂質代謝の要の酵素であるホスホリパーゼC(PLC)の中で、新規に見出したPLCeta2とPLCδ3は、脳(特に海馬や嗅脳、網膜)に発現が強く観察されること、ラットの初代培養系を用いた解析でも神経細胞に発現が見出されたことから、神経ネットワーク形成に関与すると考えている。神経ネットワーク形成には、カルシウムやプロテインキナーゼC(PKC)の他、低分子量G蛋白質(Raplb,Rhoなど)が神経軸索の決定や伸長に重要であることが判明している。そこで、「PLCeta2およびPLCδ3が低分子量G蛋白質の活性を制御することにより、神経突起の伸長、神経ネットワーク形成に関与する」という仮説をたて、それを実証することを目的とした。 1.初代神経細胞におけるPLCeta2、PLCδ3の発現:海馬、DRGを用いて発現を検討した所、どちらも初期の発現は少ないが、ネットワークが形成される時期に発現が増加することが判明した。 2.PLCδ3は神経突起の形成に関与する: Neuro2A神経細胞でPLCδ3のsiRNAを行った所、神経突起伸長が有為に抑制された。またこの抑制された細胞にPLCδ3を戻すと突起形成は回復したが、活性を欠いた変異体を導入した場合には、突起数が増すことから、活性を持つPLCδ3が神経突起伸長に対し重要な役割を持つことが明らかになった。 3.PLCδ3による神経突起の形成にはRhoファミリー低分子量タンパク質が介在する 神経突起伸長においては、Rho、Rac、Cdc42の活性化状況が重要である。そこで分化誘導した際のNeuro2A細胞での活性化型RhoGTPs(Rho,Rac,cdc42)の量的変化を検討した所、分化に伴い減少するRhoの発現がPLCδ3 siRNAを行った場合には減少しなかった。またRhoの不活性型変異体導入でこの現象が回復したことから、PLCδ3による神経突起伸長にRhoが関与することが判明した。
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