研究概要 |
CRAGは、培養細胞において異常伸長したポリグルタミンをもつataxin-3と結合し、その分解を促進する役割を報告した。(J. Cell Biol., 2006)。しかしながら、生体内で本当に効果があるかどうかについてはわからなかった。そこで群馬大学の平井宏和教授らの研究グループと共同研究により、レンチウイルスベクターを用いた遺伝子導入法によりCRAGが脊髄小脳変性症の治療に応用できるのかどうかを病態モデルマウスを使って検討した。モデルマウスについては69回のCAG繰り返し配列をもつataxin-3遺伝子を小脳プルキンエ細胞だけに発現させるトランスジェニックマウス(脊髄小脳変性症モデルマウス)を作製した。このマウスは生後20日以降、よろよろと歩き、時にバランスを失って転がるという典型的な小脳失調の症状を示した。 一方、ataxin-3凝集塊が蓄積している神経細胞におけるCRAGの機能を調べるために、CRAGを産生するレンチウイルスベクターを作製した。実際に、CRAG産生レンチウイルスベクターを生後21日〜25日の脊髄小脳変性症モデルマウスを小脳に接種したところ、2ケ月後にほ運動失調が大きく改善した。さらにプルキンエ細胞層の配列も一層に回復しており、樹状突起の伸長も観察された。ウイルスベクター接種2ケ月後のモデルマウスの小脳を調べたところ、プルキンエ細胞内の凝集塊はほとんど消失していた。今後、本研究の手法を用いて、脊髄小脳変性症患者の障害を受けている神経細胞にCRAGを発現させることで、変性している神経細胞が回復し、さまざまな症状の改善が期待される。
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