RGSタンパクは、GαのGAP能をもつG蛋白質共役受容体系の調節因子である。そのうち、両親媒性のN端のみを特徴とするプロトタイプ的なRGSが、B/R4ファミリーである。RGSタンパクは、これまでその生化学的性質からRGSドメインでG蛋白質に結合してG蛋白質選択的に作用するとされてきたが、最近の研究から、このB/R4RGSタンパクは、何らかの機構で特定の受容体系を識別・選択して、その下流のG蛋白質を制御するファミリーであることが分かってきた。我々が研究を進めているB/R4メンバーの小脳特異的なRGS8のGq系の調節では、Gq受容体との選択的直接結合が受容体選択性の決定機構の一つであることが明らかになり、さらに海外のグループも同様の報告を行い、一般的なB/R4の作用機序であると考えられつつある。しかし、直接結合出来ない受容体の系もB/R4は選択して調節する。即ち、直接結合以外に、受容体を間接的に識別するシステムがあると考えられる。これらRGS8の選択性を決定するシステムの全貌を解明するのが本研究の目標である。 平成18年度は、Two hybridスクリーニングで間接識別に寄与する候補因子の探索を行った。その結果、 (1)Gi受容体に結合する足場タンパクspinophilin(SPL)が見出され、詳しく結合解析を行うと、興味深い事にRGS8上のSPL結合部位は前述のGq受容体結合部と全く同一である事が明らかになった。即ち「RGS8は、細胞膜上でSPLの関与如何によって制御する受容体系がスイッチする」という全く新しい機構が示唆されることになった。現在、生理学的解析によって、この新しい受容体調節の機構の解明を進めている。 (2)また、RGS8が微小管モーターKif1aに結合することが判明した。そこで、RGS8上の結合部位をサーチすると、受容体/SPL結合部以外である事が判明し、RGS8を介して特定の受容体が微小管モーター上を輸送されるというシステムの存在が考えられる。これまで、神経機能に重要なチャネルが微小管上を輸送されて機能部位に至る機構は報告されているが、もしG蛋白共役系がRGSを介して微小管モーターに結合し機能部位に輸送されるのであれば、RGSがG蛋白系を抑制しながら輸送が行われることになり実に合理的である。現在、その実体を明らかにする為、培養小脳細胞を用いた検討を行っている。 (3)また、RGS8が低分子G蛋白質活性化因子RGL3にも特異的に結合することが判明した。そこで、結合部位を特定すると、RGS8は、受容体/SPL結合部及びKif1a結合部を使わずに、N端1-5残基で、RGL3のRal活性化ドメインに結合することが分かってきた。現在、この相互作用によってどうシグナル調節が行われるのか解析を行っている。 (4)まだ、未解析の候補因子が10クローン残っており、真の結合因子か検討を進めている。 今後は、RGS8がその結合蛋白質群を使って、どのような仕組みで小脳内のG蛋白質シグナルを様々な選択性で調節・統合しているのか、その反応ネットワークの機構を分子レベルで解明していく予定である。
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