我々はこれまでに、三量体G蛋白質βγサブユニットからのシグナルが、細胞遊走や伸展、あるいはアクチンストレスファイバー構築などの細胞応答を制御していること、これらのシグナルにRhoファミリー低分子量G蛋白質が関与していることを明らかにしてきた。これらの結果はβγにより活性化されるRhoファミリー低分子量G蛋白質特異的なグアニンヌクレオチド交換因子(RhoGEF)の存在を示唆しているので、その同定を試みた。また、同定されたRhoGEF分子が細胞伸展などに関与しているかどうかを検討した。RhoGEF候補として、かずさDNA研究所から供与されたヒト長鎖cDNAクローンの中からDHドメインおよびPHドメインを持つクローンを選択し、細胞にGβ1γ2遺伝子と共発現した。Rho、Racの活性化の指標として使用されているserum-response element(SRE)依存的転写活性を測定して、βγにより活性化されるRhoGEFクローンを同定した。その結果、FLJ00018が最も強くSRE依存的転写活性を上昇させた。αサブユニットの活性化型遺伝子と共発現してもSRE依存的転写活性を上昇させなかったので、βγにより特異的に活性化されるRhoGEFと考えられる。変異体を用いた実験から、RhoファミリーG蛋白質ではRacの活性化を介することを示す結果を得た。FLJ00018をm2-ムスカリン受容体と共発現させ、カルバコール刺激すると有意なSRE依存的遺伝子発現の上昇が見られた。このカルバコール刺激によるSRE依存的遺伝子発現上昇は、百日咳毒素処理あるいはβARKとの共発現により抑制された。さらに、線維芽細胞にこのRhoGEFを発現させるとLPAによる細胞伸展を促進した。以上の結果からFLJ00018は、受容体刺激によりGiから遊離したβγにより活性化される新規のRhoGEFであると考えられる。今後はその活性化機構や機能について詳細な解析を行う。また、現在までに報告があるβγにより活性制御を受けると考えられるP-Rexなどの活性化機構と比較検討していく予定である。
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