セプチンは酵母から哺乳類まで広く保存されているG蛋白質群であり、細胞内シグナル経路・細胞骨格系・細胞周期の制御などを通じて細胞の極性決定・維持機構への関与が示されている。哺乳類では神経組織に大量に発現しており、神経伝達物質やホルモンの放出との関連性が示唆される。しかし、セプチンの性状・機能の詳細やそれらの制御機構は殆ど不明である。本研究ではSept8をモデルとしてセプチンの包括的な性状・機能解析を行い、生理的重要性の解明を目指している。現在までに得られている具体的な成果として以下の点が挙げられる。第一には、Sept8の特異抗体を3種類作成して神経組織における分布を解析したところ、シナプスへの濃縮が認められたことである。特に、Sept8_v3アイソフォームを特異的に認識する抗体では、バゾプレッシンやオキシトシン分泌を行う脳内室傍核と視索上核が特徴的に染色され、Sept8_v3のホルモン・神経伝達物質放出への関与が示唆された.第二の成果として、Sept8結合蛋白質の同定が上げられる。すなわち、Sept8と結合する蛋白質のスクリーニングを行ったところ、シナプス小胞の分泌に関与する蛋白質であるシナプトブレビンを同定したことである。さらに、Sept8は視神経にも局在し、視神経細胞のアポトーシスのマーカーになりうることを示した。一方、セプチンと神経疾患との関連性を示す結果も得られた。すなわち、神経痛性筋萎縮症の原因となるSept9(Sept8類縁蛋白質)の変異が、他のセプチンや低分子量G蛋白質Rhoのシグナルとの相互作用異常であることを見出した。
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