クロモキネシンKidは分裂期を通し、染色体整列、紡錘体長の維持、分裂後期の染色体の一塊化など複数の役割を担うモーター分子である。研究代表者らは昨年度までにKid欠損マウスを作製し、Kidの欠損は体細胞分裂よりも卵割期の分裂により深刻な影響を与え、約半数が着床前に致死となることを見出した。本年度はKid欠損により生じる異常について、第一、第二卵割分裂期の染色体動態のtime-lapse観察を行い、1.染色体の中期板整列には異常がない、2.分裂後期染色体コンパクションが起こらず、分配中にまとまりきれず集団から離れてしまう染色体が高頻度に出現し、多核が形成される、3.多核化は次の分裂期核膜崩壊と染色体整列によって一度リセットされるが、分配後の核膜形成時に再び高頻度に微小核/多核が形成されるという現象が8細胞期まで続く、4.体細胞分裂時のKid欠損は凹凸のある核膜形成を引き起こすが、多核や微小核形成には至らず細胞の増殖を阻害しない、ことを明らかにした。Kidによる染色体コンパクションは、受精後の雌前核形成と数回の卵割分裂の娘核形成時という、母性因子依存的な分裂時の核膜形成に特に重要であり、胚性ゲノムからの転写が開始される時期の核形成を保証していると考えられる。また、Kidの染色体局在は、Kidのもつ核局在シグナル(NLS)とImportin αとの結合を介した、Ran-Importin α/β系により制御されていることを明らかにした。
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