真核生物は線状ゲノムを有し、一方原核生物は僅かな例外を除き、環状ゲノムを有する。この対称性の理由や後者の理由も不明である。後者を明らかにするためには、環状・線状の2様態を有する細菌を作成し、比較するのが一番有効な方法であろう。 我々は、最も解析が進んだ細菌の1つである大腸菌の環状ゲノムの線状化に成功した。線状化は、大腸菌を宿主とする溶原化ファージN15を利用した。N15の溶原化ファージのゲノムは線状であることが知られており、その両末端はヘアピン構造を有する。この線状化には、ファージがコードするTelNタンパクと、TelNが作用して線状化末端を形成するtos配列が必要である。我々は、tos配列を、大腸菌環状ゲノムの複製開始点(oriC)の真向かいにあるdifサイトの近傍に挿入し、この株にtelN遺伝子を導入し発現させると、大腸菌の環状ゲノムが線状化することが判明した。 両様態大腸菌を比較することで以下のことが判明した。(1)線状化ゲノム大腸菌は、環状ゲノム大腸菌と同じ増殖速度を有し、細胞の大きさや形も変化せず、核様体も殆ど変わらないこと、(2)DNAチップを用いた解析から、両様態ゲノムの大腸菌の遺伝子発現は、数ヶの遺伝子を除き同じであること、(3)線状ゲノムの複製は、環状ゲノムのそれと同じで、danA依存的にoriCから両方向に進行すること、(3)両株ゲノムのトポロジーの違いの有無をジャイレースとTopo IVの温度感受性変異を用いて比較したが、違いは無かった。(4)唯一の違いは、dif変異株の表現型であり、環状ゲノム株は細胞が長く伸び、増殖速度が低下するが、線状ゲノム株は野生株と変わらなかった。 線状化ゲノム末端の局在性を調べたところ、環状化ゲノム菌で常に行動を共にしたtos両側の2点が、分裂直後に両末端に分離することが判明した。最後に、ゲノム上の様々な部位に末端を有する線状ゲノム菌を作成し調べたところ、oriCから両末端への距離が同じであれば環状ゲノム菌と同じ増殖速度を示すが、両末端への距離の違いに比例して、細胞の長さと増殖速度が増加し、極端になると生存できなかった。
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