動植物のゲノムは線状であるのに対し、細菌のゲノムは一部の例外を除き環状である。その理由は分かっていない。この謎を明らかにするため、我々は本特定研究期間において、大腸菌の環状ゲノムの線状化に世界で初めて成功した。作成した線状ゲノムDNAの末端部分はヘアピン構造を有しており、これが末端部分を分解から防いでいる。面白いことに線状ゲノム大腸菌は、環状ゲノム株と同じように生育した。両者の諸性質の比較を行ったところ、環状ゲノムで必然的に生じる2量体ゲノム(線状ゲノムでは起こらない)を単量体に変換するdifと呼ばれるシステムは、予想通り線状ゲノム株では不要であった。一方、線状ゲノムの末端の位置によって生育速度が変化した。つまり複製開始点からの両腕が同じ長さの場合だと、環状ゲノム菌と同じ生育速度を示すが、両腕の長さの違いに比例して生育が悪くなり、極端に異なると菌は生存できなかった。一方、線状ゲノムの両末端は、分裂直後は細腹の両極に位置することが判明した。今後、環状から線状へのゲノムの変換の瞬間を動的に捉えることで、細菌ゲノムの全体構造の特性を明かにしたい。この線状ゲノム大腸菌を作成するには、大腸菌に感染する溶原化ファージのN15と呼ばれる溶原化ウイルスを利用した。このファージは大腸菌内で線状DNAの状態で溶原化する。以上の解析から、自然界においても、大腸菌に溶原化したN15ファージのゲノム線状化システムを介して線状ゲノムの大腸菌が生まれてもなんら不思議でないと推察された。
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