研究概要 |
魚類は体液と大きく浸透圧が異なる水環境で生きていくために,イオン輸送に特化した細胞を発達させている。この細胞は,その機能的特長から塩類細胞と呼ばれ,ミトコンドリアが豊富なことからMRC(Mitochondrion-rich cell)と略称される。MRCはイオン輸送体とそのトランスポートソームの解析に格好の材料であり,本研究では遺伝学的解析が可能なゼブラフィッシュを用いて以下の成果を得た。1.ゼブラフィッシュの幼生を用いて卵黄膜上に存在する淡水型MRCには,Na-K-ATPase型(NaK-MRC)とV-type H-ATPase型(vH-MRC)の2種類があることを明らかにした。2.そのうちのvH-MRCがNaイオンの取り込みに関与していることをNaイオン感受性の蛍光色素を用いて明らかにした。3.vH-MRCにはCarbonic anhydrase(CA)IIとIVが多量に発現し,Naイオンの取り込みに関わっていることを明らかにし,淡水からのNaイオンの取り込み機構を提唱した。基本的には,恐山ウグイの解析から2003年に提唱したNaイオン吸収機構に,V-typeH-ATPaseを駆動力供給分子として追加したモデルである。CA-IIのNaイオン取り込みへの係わりは,アンチセンスモルホリノMOでCA-IIの発現を抑えると,Naの取り込みが減少することからも確かめられた。4.CA-IIに対する抗体染色の結果,CA-IIはvH-MRCのサブアピカル側に濃縮されて存在することが分かった。この分布様式は,V-type H-ATPaseのそれと極めてよく一致しており,両者はトランスポートソームを形成して効率よく働いている可能性が強く示唆された。
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