研究概要 |
本研究では、胃酸分泌機構の最終段階におけるトランスポートソーム(胃酸分泌分子複合体)の構成と機能を明らかにすることを目的とした。 まず、ブタ胃細管小胞に富むベシクル(TV)および分泌膜に富むベシクル(SA)をCHAPS.で処理後、不溶性画分(DRM)および可溶性画分(non-DRM)の単離を行った。総リン脂質は、TVでは大部分がDRMに局在していたが、SAではDRM、non-DRMに同程度に分布していた。TVではカベオラマーカーのcaveolin-1が高発現しており、SAでは脂質ラフトマーカーのflotillin-2が高発現していた。このことからTV自体がカベオソームであり、一方、SAにはラフトおよび非ラフト領域が存在するものと考えられた。胃プロトンポンプ(H^+, K^+-ATPase)は、カベオソーム、ラフト、非ラフトの3種類すべての場に存在していた。 TVに高発現しているCl^-/H^+対向輸送体のCLC-5は、H^+, K^+-ATPaseと共にDRMに分布し、両者は免疫共沈降した。Methyl-β-cyclodextrin(MβCD)処理により、CLC-5とH^+, K^+-ATPaseはnon-DRMに移行し、水溶性コレステロール添加によりDRMへ再分布した。これとパラレルにH^+, K^+-ATPase活性は、MβCD処理により減少し、コレステロール添加により回復した。SAに高発現しているK^+-Cl^-共輸送体のKCC4は、H^+, K^+-ATPaseと免疫共沈降した。KCC4阻害剤のDIOAは、SAのH^+, K^+-ATPaseによるプロトン輸送活性を阻害したが、TVの輸送活性に影響を与えなかった。 以上の結果から、胃酸分泌細胞の分泌膜と細管小胞では、胃酸分泌分子複合体とそれを取り巻く環境が大きく異なっており、それぞれ空腹時と摂食時の胃酸分泌機構に対応しているものと考えられた。
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