研究課題
アルツハイマー病ではシナプスの変性が初期から観察されるが、現在までにその原因は解明されていない。さらに、家族性アルツハイマー病の原因遺伝子であるプレセニリンPS1の機能障害がどのように、シナプス変性につながり、「記憶障害」を主徴とする神経症状が出現するのか、は依然として不明のままである。これまでに、PS1の細胞内局在については、ER, Golgiに主に局在すると報告されてきたいが、近年になり、一部の機能的なPS1は、細胞膜上に存在し、そこでN-cadherin, cateninとともに複合体を形成していることが明らかになってきた。われわれは、平成18年度において細胞レベルの実験結果で、プレセニリン(PS1)が、N-cadherin, cateninと複合体を形成していることがPS1のシナプス膜上への局在に重要であることを見出した。この複合体を形成しない変異PS1は、細胞膜上に局在しないことも明らかになった。さらに、この複合体形成には、GSK3βというリン酸化酵素によるPS1のリン酸化が大きな影響を持っていることも明らかになった。PS1はGSK3βにより、ループ部分でリン酸化されることを見出し、このリン酸化の修飾を受けることで、PS1とN-cadherin, cateninの複合体が形成されにくくなり、故に、細胞膜から遊離して、その結果として、基質切断能やcell survival pathwayというPS1の機能に変化が生じることがわかった。この結果より、PS1のシナプス膜上での局在が、その機能発現において極めて重要な意義があることを明らかにした。これを踏まえて、平成18年度には、PS1のリン酸化をmimicする変異PS1を発現するトランスジェニックマウスを作成した。現在、このマウスを解析中であり、すでに、いくつか影響を受けているシナプス蛋白を同定しつつある。今後は、これをヒトアルツハイマー病脳の組織にて検証する予定であるとともに、さらにマウスを用いてPS1の修飾による機能変化について検証を進めていく予定である。さらに、PS1の機能を変化させるGSK3βの発現レベルに影響を与えるような環境因子についても研究を進めて行く予定である。
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Neuroscience 145
ページ: 5月10日
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