動物細胞由来のNa+/H+交換輸送体NHE1はあらゆる組織に普遍的に存在し、Na+濃度勾配をエネルギーとしてH+を排出することで細胞内pHなどの調節を行う。またNHE1はアクチン結合蛋白質であるERM蛋白質と直接相互作用することでアクチンフィラメントを細胞膜直下に固定しており、この相互作用はNHE1の局在と細胞骨格系の制御において必須である。これらNHE1の機能は全てNHE1のC末端細胞質ドメインを中心とした膜輸送分子複合体形成によって複雑に制御されている。そこで本研究ではNHE1のC末端細胞質ドメインと様々な制御因子群からなる膜輸送分子複合体の立体構造をNMRおよびX線によって決定し、NHE1の活性化と細胞骨格系の制御機構に構造的な基盤を与えることを目的とした。また上皮細胞においてNHE3膜輸送分子複合体形成を担うNa+/H+交換輸送体制御因子NHERFについてもその複合体の構造生物学研究を行うこととした。 平成18年度はNHE1のC末端領域の一部とその制御因子CHP1の複合体の立体構造決定に関する論文発表を行った。またNHE1細胞質ループとの相互作用をNMRにて解析した。今回実験に用いた細胞質ループペプチドとの相互作用は弱かったが、研究協力者によるクロスリンク実験から相互作用が示唆されており、今後実験条件の検討を行う必要がある。またNHE1のC末端領域の他の部分について発現系を作成した。またNHE3に結合する機能制御因子であるNHERFと細胞骨格因子ラディキシンとの複合体の立体構造決定に成功し、NHERF結合に伴うERM蛋白質の構造変化が競合的な細胞接着分子の結合阻害を引き起こすという驚くべき結果を得た。
|