骨髄微小環境を形成するニッチ細胞及び細胞外マトリックス群との相互作用により、造血幹細胞及び前駆細胞の増殖、生存、分化は緻密な制御を受ける。細胞外環境による細胞増殖及び機能制御の分子機構について、造血幹細胞の著しい増幅がみられる抑制性アダプター蛋白質Lnkの遺伝子欠損マウスを起点とし、ニッチ細胞及び細胞外マトリックス群と造血幹細胞及び前駆細胞群の相互作用のメカニズム、制御分子機構に焦点を当てて解析した。 造血幹細胞・前駆細胞とニッチ細胞との相互作用におけるLnk依存性抑制系の機能について、OP9やその他のストローマ細胞株との共培養系を用い、細胞動態と増殖分化の関係に着目して検討を進めた。Lnk/TPO重複欠損マウスを作成することにより、Lnk欠損によって生じる造血幹細胞の増加及び機能亢進がトロンボポイエチン(TPO)欠損下ではかなり軽減することを明らかにした。Lnk欠損造血幹細胞ではTPO依存性増殖が亢進し、正常細胞では起こらないTPO単独刺激での自己複製がみられること、OP9共培養系でサイトカイン非添加条件下でも1週間以上培養維持されることを明らかにした。また、細胞接着及び細胞形態制御機構との関係について遺伝子発現や増殖反応を起こさない血小板を用い解析した。Lnk欠損血小板は、フィブリノーゲン上で野生型血小板が示すラミリポディア形成を主とする形態を示さず、フィロボディア優位な形態を示すことがわかった。インテグリンの刺激依存的にLnkはADAP及びSrcと複合体を形成し、インテグリンβ鎖のリン酸化を制御しており、接着分子を介する細胞反応の新しい制御機構を明らかにした。
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